心理学史上、最も危険な実験のひとつ
ある日のこと…
ミシガン州イプシランティの精神病院の一室に「自分こそがキリストだ!」と信じる男たちが集められました。
彼らは統合失調症を患っておりそれぞれ、自分が神の子であり、他の2人は偽物だと主張していました。

──もし、同じ妄想を持つ人間同士を対面させたらどうなるのか?
互いの信念は揺らぎ、現実に目覚めるのか? それとも、さらなる混乱が生まれるのか?
1950年代、アメリカの心理学者ミルトン・ロキーチは、この問いに答えを出そうとしました。
しかし、彼が手を染めたのは、人の心を弄ぶ、極めて危険な心理実験でした。
「自分こそが本物」対峙する3人のキリスト
3人の統合失調症患者は
「自分はイエス・キリストである」と確信していました。
そこでロキーチは考えました。
「同じ妄想を持つ者同士を対面させれば、互いの信念が崩れ、現実に戻れるのではないか?」
こうして、3人のキリストを同じ病室に収容し、共同生活を送らせるという実験が始まりました。
毎日、3人のキリストは顔を合わせ、互いの存在を否定し合いました。
A「お前がキリストだと? いや、本物はこの私だ!」
B「ふざけるな、私は神の啓示を受けているんだ!」
C「お前たちは狂っている!」
彼らの衝突は避けられませんでした。
そこでロキーチはさらに心理的な揺さぶりをかけることにしました。
●偽の手紙を作り、神からのメッセージであるかのように患者たちに渡した。
●看護師を通じて、彼らの妄想に反する情報を巧妙に吹き込んだ。
彼の目的は「キリストである」という誤った信念を崩壊させることでした。
妄想の崩壊か? さらなる狂気か?
しかし、ロキーチの期待とは裏腹に、彼らの信念は崩れるどころか、さらに強固なものになっていきました。
●「他の2人は狂人だ」
●「彼らこそが試練を与える悪魔だ」
患者たちはますます自分の世界に閉じこもっていきました。
現実を受け入れるどころか、苦しみ、混乱し、心を守るために妄想をより強く信じるようになりました。
実験は2年にわたって続けられたが、最終的にロキーチは「効果なし」と判断し、この実験は終了となりました。
この実験は、現在の倫理基準から見れば明らかに問題だらけでした。
①患者の同意なしに行われた(インフォームド・コンセントの欠如※説明と同意)
②心理的苦痛を与えた(実験のストレスでさらに混乱を招き病状を悪化させた)
③ 治療ではなく、ただ観察されるだけだった(患者のための実験ではなかった)
そしてロキーチ自身も後年、この実験を「倫理的に誤っていた」と認め、こう語りました。

私は彼らを変えようとした。だが、本当に変わるべきは私の方だった…
人は自分の信じたいものを信じる
この実験は「精神疾患のケース」として見るだけではなく、人間の認知や信念のあり方について重要な示唆を与えます。
私たちは、自分の世界観が崩れるような事実を突きつけられたとき、強固に自分の考えを守ることがあります。
これは「確証バイアス」や「認知的不協和」の一例と言えるでしょう。
社会においても、異なる意見を持つ人々が対話することで、より対立を深める場面が見られます。
SNSなどでは特に顕著で、自分の意見に合う情報ばかりを集めることで、自らの信念を強化し続ける人も少なくありません。
私たちは「小さな世界」を生きています。
他者と対立した時、その人の視点から世界を見ることができたなら、違った景色が見えてくるかもしれません。

「自分は正しい」そう思った時こそ、その考えを一度問い直してみることが大切です。
最後まで閲覧いただきありがとうございました!
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